ふきぶろ

とあるアラフォー男のパフォーマンスアップ奮闘記

温冷浴は疲労回復に本当に効くのか?

温冷浴をご存じでしょうか?

ちまたでは、

「疲れが取れる。毎日馬車馬のようにがっつり働けるようになる!」
「寝つきがよくなる。死んだようにぐっすり眠れるようになる!」
「美肌になる。いつの間にか赤ちゃんのようなプニプニお肌に♪」
「冷え性が治る。雪崩のように血液が手足に押し寄せてくる!」
「インポが治る。おかげさまで、息子は今日も元気です。」
「うつに効く。ドーパミンが脳内ペガサス流星拳!」
「恋の病に効く。リア充恋愛体質が2次元変態属性に!」

などと、まことしやかに喧伝されています。

疲労回復のみならず、睡眠にもお肌にも冷え性にもインポにもうつにも恋愛にも良いとのこと。これらは、はたして本当でしょうか?

そもそも疲れが取れると言っても具体的にどんな取れ方なのか、科学的な根拠はあるのか、などと疑問はつきません。

確かに昔から温冷浴は体に良いと言われているけれど、所詮、銭湯オタクの錯覚や妄想ではないか。やっているのは、おっさんかおじいちゃんばかりだし、なんか温冷浴、おっさん臭いんだよね…。

疑い深いええかっこしいの、自分もそろそろいい感じで中年男な僕はそう思って、今までずっと温冷浴を避けていたわけです。

しかし、先日、以下の銭湯神のヨッピーさんの記事を読んで、少し考えを変えました。

travel.spot-app.jp

これを読んでこう思いました。僕は、単なる食わず嫌いだったのではないか、と。

本当は温冷浴、すごくやりたかったのに、冷たいの嫌いだから言い訳していただけなんじゃないか?

体に良さそうなことは昔からすぐ試していた癖に、温冷浴だけやろうとしないのはチキンなのではないか?

取り合えず実際に自分でやってみてから批評しよう。そうしよう!

というわけで、温冷浴の真の姿を突き止めんと、いつものように自らの肉体で検証してみることにしました。

Top Photo credit: deanwissing via Visual Hunt / CC BY-SA

 

1. 温冷浴の驚愕体験談

1-1. 銭湯編


Photo credit: super overdrive via Visualhunt / CC BY

 

まずは、家から歩いて5分のところにある近所の銭湯で試しました。

初めてなので特に時間配分や手順は考えず、辛かったら無理もせず、適当な塩梅で行うことに。しっかり湯船で温まった後、おそるおそる冷水風呂に浸かります。

1回目
メチャ冷たい。最初は下半身だけ、続いて胸まで、肩までと、ジワリジワリと段階を踏んで実施。1分くらいで中断して、湯船へ直行。

2回目
1回目よりは少しマシになった気はするが、相当冷たいのは変わらず。これも1分くらいで中断し、湯船へ直行。

3回目
体感的な冷たさは変わらないのだけど、多少我慢できるようになった。3分くらい浸かれるように。

4~6回目
徐々に慣れてきて、5分以上浸かれるように。6回目あたりでは、我慢すれば30分くらいいかるかもしれないと感じるように。最後は冷水で締めて終了。

そして、気になる効果のほどですが…、妙に体が軽い!

僕は普段、銭湯上がりはリラックスし過ぎて、ダラ~とあまり動きたくない気分になるのですが、温冷浴した今回は、シャキシャキ軽快に体が動きます。今からランニングでもしようか、というノリです。

体感的な疲労回復効果としては、温冷浴◎です。

1-2. 自宅シャワー編


Photo credit: gagilas via VisualHunt.com / CC BY-SA

 

銭湯での体感効果が思いのほか大きかったので、こりゃできれば毎日やりたいなと思い、自宅シャワーで、より簡便なやり方で実践してみることに。

シャワーでも、体感プロセスはほぼ銭湯と同じ経過をたどります。出だしは冷たく、回数を重ねるに従って徐々に楽になってきます。

ただし、銭湯の冷水風呂で一気に全身浸かるよりも水量が足りないせいか、やや中途半端感があり、やりにくさがあるのが難点です。

が、その半端さを有り余る効果はあります。ここ1ヶ月、ほぼ毎日続けておりますが、温冷浴実施以前より元気です。あまり疲れが残らない体になりました。

何より寒さに強くなったことが、個人的に大きいです。コタツやストーブの中で生活したいと本気で思うほど、昔から寒いのが全くダメな人間だったのですが、今年は全くもって平気です。

朝一番寒い時に冷水かぶっているせいでしょうか、寒さの感覚に鈍感になりました。ついでに、今年はまだ風邪を引いておりませんし、引く気配もありません。

2. 温冷浴の真面目な科学的評価

さて、エビデンス厨な僕として気になるのは、温冷浴の科学的評価です。

体感的に効く感じがするのは事実です。が、

「はたして実質的な疲労回復に本当につながっているのか?」
「単に効いている感じがしているだけなのか?」
「自分が特異体質で効いているだけではないのか?」
「効果ありだとするとなぜ効くのか?」

といった細かい点を、ぜひ知りたいところであります。

ここは、医学系エビデンスの庭、PubMed*1さんにあたってみましょう。

2-1. 温冷浴の全般的な評価

まずは、都合よく2013年にシステマティック・レビュー*2&メタアナリシス*3が行われていましたので、これを見てみましょう。

▼温冷交代浴*4と筋損傷誘発性運動:系統的レビューとメタ分析(2013)
Contrast Water Therapy and Exercise Induced Muscle Damage: A Systematic Review and Meta-Analysis

この分析は、筋肉にダメージを与える運動後に温冷浴を実施した形の研究を、全部で18件集めて、全体として回復効果があると言えるのかどうかを吟味したものです。

結論から言うと、単に休むだけよりは温冷浴は効果あり、とのこと。

筋肉痛も減るし、筋機能も改善する。しかし、温水浴、冷水浴、圧縮法、ストレッチなど他の積極的な回復手段と比べると、効果の大きさはあまり差がないようです。

 

続いて、2016年に行われたシステマティック・レビューも紹介しておきます。

▼チームスポーツ後の冷水浴と温冷浴の回復効果:系統的レビューとメタ分析(2016)
Effects of Cold Water Immersion and Contrast Water Therapy for Recovery From Team Sport: A Systematic Review and Meta-analysis. - PubMed - NCBI

こちらは、チームスポーツをした後、冷水浴と温冷浴の回復効果を測った研究を、23件調査したもの。

結論としては、冷水浴、温冷浴とも体感的な疲労回復感に関しては効果あり。ただし、筋肉痛には効果なさそう、とのことです。

 

両方のメタ分析を踏まえると、冷水浴と比べて効果が大ありという訳ではないものの、何もしないよりは疲労回復に効果ありとまでは、大体言えそうです。

2-2. 温冷浴の量的評価

温冷浴が疲労回復に効くとして、次に気になるのは、「一体どれくらいやれば良いのか?」です。

数分間を1往復だけでも効果あるのか、それとも1時間以上かけて何往復もする必要があるのか。必要な量を知りたいところです。

それを調査した研究もあったので、ご紹介。

▼サイクリング運動のリカバリーにおける温冷浴継続時間の影響:用量反応研究
Effect of contrast water therapy duration on recovery of cycling performance: a dose-response study. - PubMed - NCBI

この研究は、1分間隔で温浴と冷浴を繰り返し、合計6分、12分、18分でそれぞれ効果を測定。

何もしないことと比べると、どの時間も疲労や筋肉痛に効果あり。ただし、心拍数や疲労回復感*5に継続時間による差はない、とのこと。

パフォーマンスに関しては、12分までが良い、とのことです。

2-3. 温冷浴のリスク

まず、心臓の悪い人は止めましょう。突然死するかもしれません。

また、リカバリーに良いからと言って、ひどい怪我中の人も止めましょう。悪化するリスクがあります。

あと、水に浸かる行為自体が、そもそも禁忌な方もNGです。

以上の絶対やっちゃダメな人以外では、特に温冷浴を続けることによるリスクは、まだ発見されていないようです。

3. 温冷浴の超個人的考察

上にあげたシステマティック・レビューの論文内でも少し言及されていましたが、温冷浴に関する研究は全般的に小規模なものばかりで、全てが十分信頼できる研究とは言い難いです。

が、何もしないよりは良い感じじゃない?というのが、現状、スポーツ科学界でのおよそ一致した見解のようです。

温冷浴が効果的である理由*6は、温と冷を繰り返すことで血液やリンパの循環が良くなるため、と言われています。

特にリンパ管は、血管と比べるとポンプとなるものの働きが弱く、循環スピードが遅いために、温冷浴はリンパ液を介入的に流していく有力な手段の一つとなっています。

温冷浴はいわば、一人でできるリンパマッサージ、と考えられます。

慣れるまで多少の時間が要りますが、そのうち、やっている最中から妙な恍惚感、快感が生まれてきます。シャワー浴びながら、風呂に浸かりながら*7、一人でハイになれるのです。ランナーズハイみたく、脳内で快感物質が出ているのかもしれません。

正直、病みつきになります。僕はもう、温冷浴やめられません。

あなたも、ぜひお試し下さい。

 

なお、睡眠・お肌・冷え性・インポ・うつ・恋愛にも効果的、との説は未検証です。

そういう論文も探せばどこかにあるかもしれませんが、血行が良くなるのと、たぶん脳内ホルモン(βエンドルフィンあたり?)が出ていることで、ほとんど説明がつくと思われます。何にせよ循環は大切、ということですね。

4. まとめ

  • 温冷交代浴は、慣れるまで多少苦労する。
  • 温冷交代浴は、実施直後の場合、体感的な疲労回復感あり。
  • 温冷交代浴は、中期的に継続した場合、体感的に疲れを感じにくくなる。
  • 温冷交代浴の現状の科学的評価は、冷水浴や温水浴と比べて特に大きな効果の差はないものの、何もしないよりは疲労回復に効果ありそう、というレベル。ただし、規模が小さい研究ばかりなので、はっきりしたことを言うにはもっと検証が必要。
  • 1分ごとに温/冷を交代する場合、パフォーマンス向上のためなら6往復・計12分程度までに止めておくと良いかも。
  • 温冷交代浴の副作用は、特に発見されていない。持病と体調に合わせて、常識の範囲で。
  • 睡眠・お肌・冷え性・インポ・うつ・恋愛に対する効果は未検証。たぶん効果あると思うよ。いや、きっとあるはず?!

Footnote

*1:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed

*2:システマティック・レビュー - Wikipedia

*3:メタアナリシス - Wikipedia

*4:温冷浴のことを、英語圏では「Contrast Water Therapy」「Contrast Bath therapy」「Hot/Cold Immersion Therapy」などと呼んでいます。「Contrast Water Therapy」の頭文字をとった「CWT」という略称が論文では良く使われているようです。

*5:疲労の科学的評価は、通常、心拍などの何らかの生理的な指標、被験者の自己申告による主観的疲労感の測定、実際のパフォーマンスの測定の三つの観点からなされます。この論文での主観的疲労感は、RPEによる測定。 <参考> Rating of perceived exertion - Wikipedia

*6:Contrast bath therapy - Wikipedia

*7:本来はシャワーで済ますのではなく、風呂の方がおすすめです。全身を水に浸した方が、体に与える水圧(静水圧)が高くなり、その分ポンプの働きが増します。